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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(あ)2707号 決定 1969年4月25日

本籍並びに住居

横浜市南区大岡町字寺ノ下二一三七番地

洋装生地販売業

上野尚義

大正一四年一〇月二一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和四三年一一月二七日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人高橋栄吉の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

昭和四三年(あ)第二七〇七号

被告人 上野尚義

弁護人高橋栄吉の上告趣意(昭和四四年一月三〇日付)

原判決は以下記載の理由により刑の量定が著しく不当であり、過酷であると思料する

上告代理人は原審において控訴趣意書記載の如く

(イ) 被告人は本件犯罪の捜査の初頭からその取調べの過程において自から進んで資料を提供して、売上金額や実収利益額の算出に当つても商業の慣行上あり得ない程の不合理な基準や比率を甘んじて認め取調官の押しつける不当な数字を鵜呑みにして実際の額を遙かに上廻る莫大な売上金額や純利益額の計出されるのを見過しておるのである従つて此の数額を基礎とする課税額も第一審判決認定のように多額に上つたのである。

かような真実に反する不利益を甘受して一言も争はないのは被告人が犯行を改悟し自責の念に強くかられておることの証左として十分斟酌せらるべきことを主張しておるのである。

(ロ) 被告人は犯行後も真実に反する不当に多額な逮脱と称せられる税額を素直に認めあらゆる算段をして全額完納しておるのである。

(ハ) 被告人が一部姉芳子名義で税金の申告をしておるのは被告人の家庭の特殊な事情から自然に派生したものであつて決して脱税の手段としたものでないことを縷述しておるのである。

(ニ) 被告人の経歴学歴職歴等において極めて善良な経済人であることを主張して量刑の上に斟酌さるべきことを主張しておるのである。

然るに原判決は「関係証拠によれば被告人がイボンヌ洋装店の経営者を姉上野芳子名義としたのは所論のように万一の場合に処し同女の経済上の地位の確定を図つたものではなくその方が累進課税の関係で税制面で有利だと考へたによるものと認められ、そのほか犯行の期間営業の規模逋脱額等に徴すれば所論の被告人に有利な事情をできる限り斟酌しても原判決の量刑が不当に重過ぎるものとは認められない」として一蹴しておるのである。

原審の態度は被告人が自白をして争はなければ真実は如何ようにもあれこれを不問して厳重に処罰すべきが当然であるとの誤つた安易至極の考へに立脚しているかに見えて仕方がない。

「関係証拠によれば」弁護人主張の被告人に有利な特殊事情も十分認められるのにこれを不問に付しているし、「犯行の期間営業の規模逋脱額等」に徴しこれに「被告人に有利な事情をできる限り斟酌」すれば第一審判決が不当過酷であることは顕著と思はれるのにこれを否定して第一審判決の科刑を容認した原判決は著しく不当な刑の量定をしたことに外ならないと思料するので破毀を免れないものと考へます。 以上

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